1999年10月26日、JR桶川駅で発生した事件を追った当時FOCUSの記者だった清水潔によるノンフィクション。この事件がきっかけとなり、2000年5月にストーカー規制法が成立した重要な事件でもある。

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また、埼玉県警上尾署による職務怠慢、被害者への杜撰な対応が国会でも質問にあがり、警察官15人が処分され、うち3人には執行猶予付き有罪判決が出ている、警察の信用が一気になくなる事件でもある。

遺族への取材のあり方も問題になった。メディアスクラムが起きたことにより遺族が「放送と人権等権利に関する委員会」(BRO)に訴えたが状況は変わることがなく、弁護士によって法的措置を取ることを通達してようやく取材が止んだ。

警察の動きが鈍く、遺族もマスコミに対して心を閉ざしている状況で、ひとり足を使った取材を行い、情報提供者を大切に扱うことでマスコミの中で唯一、遺族より信頼を勝ちった清水潔さんが綴った「記者の教科書」とも呼ばれる一冊だ。

地道な取材によって警察よりも先に実行犯を特定するも、自分が記者クラブに所属していないので警察に行っても門前払いされると知り合いの記者クラブに所属している記者に依頼して情報提供を行う。

この方がいなければ実行犯は捕まらなかっただろうし、主犯も見つからないままだっただろう。また、警察の不祥事も暴かれなかった。

中でも印象深かったのは、警察の民事不介入でまったく取り合おうとしなかった中で、ようやく告訴までできたにもかかわらず、警察が遺族宅まで行き、告訴は取り下げてもまたできると嘘をついてまで告訴を取り下げようとしたこと1。また、遺族が告訴を取り下げなかったら告訴を被害届に改竄したこと2

こういった警察の職務怠慢な対応が捜査の遅れをうみ、助けられたかもしれない人を犠牲にしてしまった。そして、警察のストーカー被害に対する消極的な対応が変わったかというと、現在でもやっぱり変わっておらず、ストーカー規制法ができてもストーカーによる犠牲者がいる。

また、謝罪の意を示していた埼玉県警は遺族から国家賠償請求訴訟を起こされると態度を一変させ遺族を攻撃し始めたことも、胸糞悪い対応となっている。遺族から預かった証拠品を捜査のためでなく、自分たちの責任回避のために使っている。訴訟後に遺族の元に帰ってきた携帯電話のメモリーは消されていた。

なくならないストーカーとその被害者、現在も続く警察の積極的ではない対応、いま読んでもいろいろ考えさせられる一冊である。

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  1. 刑事訴訟法 第237条2項に「告訴の取消をした者は、更に告訴をすることができない」とある。 ↩︎
  2. 被害届の場合、警察は捜査するかどうかは任意で判断できる。告訴が行われた場合は警察に捜査義務が発生する。 ↩︎

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